『夢見る人々に NEVER TOO LATE』
No.013

 

こんにちは。みなさん、吉野美奈子です。たいへんご無沙汰してしまい ました。
春のアートシーンはバタバタと過ぎてゆき、いつの間にかすっかり夏です。
今日は、私の日常から夕べの出来事をご紹介したいと思います。

金曜の夜にマンハッタンのギャラリストと日本酒をいただいてスタジオに帰ろうと思っているところに、電話がなった。 写真家でミュージシャンのシャンドラだった。
シャンドラと私は、111のアーティストコミュニティを守るために共 に戦った仲で私たちの愛する111が放火されて彼のスタジオが被害にあったとき、しばらく私のスタジオをオファーして共に生活していた。
今でも不定期に日本食を食べたりアフリカンなライブを聞きに行ったりする兄妹みたいな仲間である。
”MINAKO, お寿司食べに行かない?”
”うーん、お腹は空いてないけど、相手が必要ならつきあうよ”
今夜のエスコーターは、どちらもユダヤ系アメリカ人なのに日本酒の後は、お寿司のお誘いとは、なんだか今日は”日本”のサインの重なる日だなぁと思った。
イーストビレッジでお刺身をつまみながら最近観たあっちこっちのエクジビションの話に花を咲かせていると今度はシャンドラの携帯に、イタリアからやってきたジョバンニという別の写真家から電話が入った。
近くで飲んでいるからジョイントしようということになって行ってみると、ジョバンニは別の日本人の写真家の友人と飲んでいた。
あら、日本の人。
”美奈子さん、NYは好き?”
”うん。大好き。ここのアートのエネルギーが大好き。”
私は朝から8時間も石を彫ったあとでアルコールも入り疲れてしまったのでそろそろ帰ると言った。
シャンドラはいつだってどんな時だって車で動くのに、今日に限ってダウンタウンのとてもとても遠くのパーキングに駐車していてそこまでタクシーで移動しなければならないと言う。
それじゃぁ、地下鉄で帰ろうかなと思ったけど、何故だか私はつきあうことにした。
行ってみると、バッテリーパーク近くのウエストハイウェイの入り口あたりですっかり人気のないパーキングのドアはロックされていて中に入れない。
夜中の1時半である。おいおい。
貼り紙には別の入り口に行けとあるけど、いったいそれは何処なのか?
私たちは大きな駐車場の外壁ぞいに歩き始めた。
このドアもロックされてる。
こっちもロックされてる。
導かれるように進みながら反対側の大通りに出たところで、大きなライトが路上をこうこうと照らした。
その照らされた路上で、一人の黒髪の青年が丸いキャンバスに絵を描いていた。
何にでも関心を示すシャンドラが彼に声をかけた。
”いったいここで何してるの。君?”
”絵を、、描いてます”
彼はたどたどしい英語で答えた。
”なんでここなんだい?”
シャンドラが繰り返したずねた。
”ライトがあるからでしょう?”
私が答えた。
”ふむ。でも誰も通らないようなこんな場所でこんな時間に絵を描くっていうそのポイントはなんなんだ?君、どこから来たんだい?”
”Japanー"
”あら。日本人なの?”
今夜の一連の流れから予感はあった。
私は日本語に切り替えた。
”はい。”
それからシャンドラが質問するので、私は通訳して3人の会話がはじまった。
”絵を描きたいんですけど、場所がないんです。”
”スタジオがないってこと? でもどこに住んでるの?”
”どこにも。”
”どういうこと?”
”えっと、観光できてるんです。”
”ツーリストなのね。じゃぁ、どこのホテルにいるの?”
”あの、1週間前に躁病になって、病院に入院してしまって、昨日退院 したところで絵を描きたいから、どこにも泊ってないんです。”
”ふむ。”
”NYで今、すごく描きたいって思って。”
”いいんじゃない。描きたいだけ描いたら。あ。私たちもアーティストなのよ。”
”え!? そうなんですか?”
”彼は写真家でミュージシャンなの。私は絵描きで、大理石も彫るの。”
”え−!そうなんですか。感激だなぁ!!僕、今30歳なんですけど、日本にいるときは、もう遅いかなと思ってたんですけどこっちに来て、今からでもNYで3年ぐらい勉強できたらーって、 思い始めて。”
”やればいいんじゃない?”
私は彼の目をみた。
何かを伝えなければならないのがわかった。
”遅くないですかね。”
彼はつぶやいた。
”全然遅くないよ!”
宇宙が私の口から言葉を押し出した。
背中に熱いエネルギーが来ていることがわかった。
私は伝えることに集中した。
”ねぇ、日本の平均寿命って今、何歳か知ってる?85歳ぐらいなん だよ。30歳なんでしょう?平均生きられるとして、あと55年もあるんだよ?でも、人生はいつ終わるかわからないのよ。だから、今できることに最善のエネルギーを投入しないと。”
私が時折訳しているストーリーを拾って、
“NEVER TOO LATE.(決して遅すぎることはないよ)" 
とシャンドラが言った。
”今NYで描けるだけ描いて、いくらでもいいからその絵は売って行きなさい。NYは、そういう街なのよ。お金に変えて、自信に変えるの。そして前に進む。”
それは、私がNYで一番はじめに学んだことだった。
”英語があまりできなくて”
”それは、気合いでなんとかする。
 やりたいことがあるのなら、それのために勉強すればいいことでしょう?”
”そうですよね!?あー、僕、感激してます!すごい感激してます!ここで描いてて本当によかったぁ!二人に会えたことにすごい神様に感謝しています!”
”私は吉野美奈子というの。彼はシャンドラ。サイトもあるからみてね。日本で個展もあるから良かったら来て。”
”ありがとうございます!絶対行きます!美奈子さん、なんか、すごいです!”
"うふふ。私、魔法使いなの。それがどこからであろうと、人生っていうのは、準備のできたときに必要なメッセージが届くようにできてるんだね。”
”本当だ。。。”
でも、私の魔法にかかるのは、夢のある人たちだけなのだ。
”私も初めは2ヶ月で日本に帰るつもりだったのよ。だけど、アートの仕事が入ったり、作品が売れたりして、6年になる。こんなにいられるなんて思ってなかったよ。だから、動いてみないとわからないことが山のようにあるよね。準備を整えて、またNYにもどっておいで。”
”はい。必ずもどってきます!!I WILL NEVER NEVER FORGET ABOUT TONIGHT!
(今夜のことは僕、絶対一生忘れません!!)”
彼の笑顔は別人のように輝いていた。
私はサイトのアドレスを伝えて、シャンドラは自分のカードをわたして、私たちは別れた。
彼のどの想いも、私には痛いほどよくわかる。
寝る間を惜しんでもどうしてもこの街で描きたいという気持ちも、
それなのに、描く場所がなかった時の激しくやるせない気持ちも、
情熱以外になんの根拠も当てもなくこの街にもどってこようかどうしようかと迷った時のことも
全部全部私も通って来た道だ。
ダウンタウンのガレージ裏で、不思議な夜にシンクロしたささやかな出会いだった。
ーどうか、この夜をきっかけに、世界に新しい日本人アーティストが誕生することをー
と、私たちは願った。

Peace

美奈子






※バックナンバー↓
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『はじめまして、MINAKOです。―作品集の考え方―』No.001
『NYの OPEN STUDIO』No.002
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『ART BASEL in Miami Beach/世界へのアプローチ』No.004
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『ニューヨークアートを体験しませんか?』No.006
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絵画とダンスコラボレーション“つらなり”&
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NYアート体験レポート

『NYアート体験レポート』No.001 石塚智寿 編
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Biography

吉野美奈子 (画家・彫刻家・詩人)
ニューヨークを拠点に活動する
コンセプチュアル・ビジュアル・アーティスト。
吉野美奈子official website
吉野美奈子blog
2001年 渡米。 一貫して「大いなる愛・宇宙的生命のつながり」をテーマに作品を発表。絵画・彫刻ともに作風は、有機的かつ霊的。建築、音楽、舞踊をはじめ様々なアーティストのインスピレーションとなりコラボレーションに参加、その活動はNYタイムズでもとりあげられる。日本、米国をはじめ世界の各地で作品を発表。
2004年6月、米国最古の彫刻協会ナショナル・スカルプチャー・ソサエティーより 「平和のためのシリーズ」にて新人賞奨学金を受賞。
2005年3月、NY国連NGOアースソサエティ表彰式にて、舞踊家佐藤道代ととも に吉野の絵画に基づくアートプレゼンテーション「アース&ヒューマニティ」を発表。地球保護に関わる世界の知識人より喝采をあびる。
2006年黒大理石の代表作「Awaken(目覚め)」通称黒姫により、全米女性作家協会より日本人女性彫刻家として初の名誉賞を受賞。

卓越した技による独自の世界観の徹底した表現と、多方面での活躍に、NYメトロポリタン美術館、国連エクジビション部、全米具象彫刻協会、NYマルボロギャラリー、NYアートマガジン、NY市建設部等より高い推薦状を受けている。




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銀座の画廊ドットコム事務局 担当 羽鳥

 

 


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